社会人大学院で博士号を(やっと)取得しました
今年春(2023年3月)にようやく博士号を授与されました。名称は「博士(知識科学)」です。博士論文はこちら。
狭義の研究分野としては「サービス・マーケティング」です。広義だとマーケティングとか消費者行動とかになるんだと思います。
早くブログに学位取得の報告を書けばよかったですが、あまりに疲弊したのと大学院修了後は趣味である写真撮影の技術向上に没頭していたのとresearchmapを更新できたので遅くなりました。
私の博士後期課程の研究活動について
スタートは2016年4月です。在籍していたのはJAIST(東京)の博士後期課程。過去のブログを読んでもらえればわかりますが、2012~2015年は同志社大学の専門職大学院で学んでいました。
後期課程に入って学位取得まで合計7年かかっています。6年と休学1年でフルに在籍期間を使ったことになります。大学院は社会人の方がメインですが、もっと早く学位取得する人が多いと思います。
たぶん、私は例外的に長いほう。
振り返れば「もっと早く取れたなあ」と思うのですが、紆余曲折あって長くかかりました。それぞれの年の概要はこんな感じ。
2016年…前期課程の方たちと一緒に授業を受ける(必修1+選択5。修了要件は11単位)。先行研究をあさる。
2017年…ソウルにて国際カンファレンスで発表(修了要件の1つ。賞をもらって黒字になった)。先行研究で「これはイケそう」というものを見つけて、データを探す。国内の学会大会のポスターでもちょろちょろ発表。メインの研究のデータを取得。
2018年…上海の復旦大学との交流に連れて行ってもらった。台中で開催された国際カンファレンスにて発表(2つ目をやる必要はなかったが、せっかくの機会があったので)。ここまではそれなりの進捗が出ていた。ドバイやシンガポールの国際カンファレンスにも妻との海外旅行を兼ねて顔を出してみた(これは自腹)。
2019年…コロナ禍に突入。仕事も研究もペースが狂い始める。「こういう時期だからこそ逆にチャンスでは」と思ったが、現実逃避でカメラを始めてしまう。2018年末にお話をいただいていた『たのしいベイズモデリング2』(1つの章を任されました)が出版される。
2020年…前年と同じ感じ。早く研究を進めねばと思うものの、実行できず「仕事が忙しいから」と仕事を言い訳にする。
2021年…在籍期間を引き伸ばしにかかるため休学。指導教員のサバティカル休暇とも重なってよかったかもしれない。状況は前年と変わらずだが、国内の査読論文を出せた(しかし他大学の社会人学生・教員との共著でまったく博士研究とは関係のないものだったので、学位取得への影響なし)。あと、国立情報学研究所のデータ利活用のフォーラムで発表するなど、不思議な成果が出た年だった。
2022年…最後の1年。副テーマ研究(修了要件の1つ)、博士論文のメインテーマとなる査読論文をギリギリで済ませて、予備審査(12月)、本審査(翌年1月)を終える。2023年3月に学位取得。
2022年(の後半)が最大に苦しかったです。査読論文は5回ほどデスクリジェクトでした。分野のトップジャーナルから順に投稿してリジェクトを繰り返し、最終的にはQ1ジャーナルに載せられた。副テーマ研究はぜんぜん進まず(その成果は修了後にマーケティング学会で発表)、これがいちばんのネックだったかも。
11月は有給休暇をぜんぶ使ってひたすら博士論文を書いていました。最後のほうで「もう無理!」と指導教員に泣きついたところ、「とにかく書け!」と叱咤激励をいただいてなんとか乗り切った感じです。
最終的な博士論文の締切は2023年1月5日だったと思います。年末年始は閉じこもって時間との勝負。パソコンにずっと向って、自宅なのに眠くなったら机の下で仮眠していました。
ギリギリまで書いて、製本して、できあがった朝に大阪の自宅を出発してサンダーバードに乗り、小松駅からタクシーで直接JAIST本校(石川県)まで持って行きました。その後、会社(横浜)の新年会的なものに出ましたが、よく生きてたなと思います。11月~1月5日まではユンケルファンティーのお世話になりました。
研究活動以外でたいへんだったこと
書類作成はかなりたいへんというか面倒でした。もちろん書類は研究に関することですが、ことあるごとに同じような書類を何枚も作ったり、それを申請するために複数人の教員にメールで送ってやりとりしたり・・・。大事なものであることは頭ではわかっているものの、わずらわしさは感じました。通過儀礼というやつでしょうか。
社会科学の社会人大学院はオススメできるか?
向学心があって、研究してみたいいことがほんやりとしても持っていて、Mの方なら「どうぞ」と思います。研究テーマは自分で見つける必要があります。もちろん指導教員に相談できますが、最終的には自分で決めないといけません。
在籍中はけっこうつらかったです。もちろん楽しいこともやりがいもありますが、後期課程に入ってから、ぐっすり眠れたことはありませんでした(必ず1回はハッと目が覚める。歳のせいかもしれませんが、修了後はそういうことがなくなった)。24時間、頭の片隅のどこかで研究のことを考えている感覚がありました。
誰もやっていないことを考えたり調べたりするのですから「これであっているのかなあ」「なんか違う気がする」と思考が堂々めぐりして、数ヶ月進捗がないこともありました。そういう状況にも耐えられるというか、あまりふさぎ込まないような方が向いていそうです。とはいえ、社会人の場合は仕事で気分転換(それが本業なので言い方が変ですが・・・)はできます。
社会人学生の中には、短期間でぜんぶ白髪になったり、急激に頭髪が薄くなったりする人を何人も見てきました。私はそういう状態にならなかったので、比較するとそんなにメンタルに影響があったわけではなかったかもしれません。
JAIST品川(東京サテライト)はおすすめできるか?
設備や知名度にこだわりがなければオススメできます。一般の方には「JAIST何それ?」だし「ほくりくせんたんかがくぎじゅつだいがくいんだいがくはくしこうきかていせんたんかがくぎじゅつせんこう」とか言っても通じません。
「先端科学技術」という言葉が入っていますが、東京サテライトの社会人学生は仕事やプライベートで関心のあることを主に社会科学の手法を通して研究しています。
設備については物理的な研究室や学生専用のデスクというのはないですし、図書館もないです(もちろん石川県の本校には立派なものがあります)。自習スペースっぽいものはあります。空き教室を自主勉強のために使うということはできません。あと母体が理系なので社会科学の論文誌は無料で読めない場合も多いです(必要なら都度、大学図書館に申請)。
国立なので学費は私立と比べてかかりませんが、完全に回収できるかというと疑問ではあります。しかし、国際カンファレンスのための旅費・滞在費はサポートがあります(在籍中に1回とかの制限あり)。あと、研究合宿や英文校正、査読論文のオープンアクセス化にかかる必要も出してもらえました。
今の時代はメールやチャットツールやオンラインビデオ会議ツールがあるので、研究指導の場所はかなり自由度が高いです。私は大阪在住ですが特に不都合は感じませんでした。沖縄に住んでいる社会人学生も在籍していたと思います。
これから社会科学の社会人大学院に入る方へのアドバイス
研究活動について何か得意なことを持ってほしいと思います。分析手法でも情報でも何でも「これだけは教員にも負けない(おこがましいですが)」と思えるものを作ってほしいです。
私の場合は分析手法(量的のほうが好きですが、必要に迫られて質的なものも)を知るのが好きだったので、そこは専門職修士のときからいろいろ調べて身につけてきました。調べればたいていのことは解決できます。
英語は避けられませんのでがんばりましょう(私の場合は取り扱った研究テーマで日本語話者の研究者がいなかったので必然的にそうなったんですが)。また研究室が「世界に発信していこう」という感じだったので、査読論文は英語で書きました。これが時間のかかった大きな原因の1つかな・・・(なお、日本語の査読論文でも学位は取れます)。海外での発表も推奨されていました。
最後に自戒をこめてですが、より研究指導を受けるには、随時自ら進捗をちゃんと報告して、もっとこちら発信をしていくべきでした(どうしても進捗が出ないと連絡しづらくなるので)。
学位取得後について
仕事は特に変わっていません。ストレスに感じるのは大学や研究機関に所属していないので、論文を読んだり、データを取ったりするのが不便になったことです(NII IDRのポスター発表を論文化しようとしたら、研究機関にいないためデータ利用はNGでした。お蔵入り決定)。
後期課程の研究でまだやり残したことはありますし、研究活動は続けていく予定です。どこかの大学・研究機関で非常勤のお仕事を持ったほうが将来の共同研究者と出会えたり、研究がしやすかったりするかもしれないので、探してみようかな。