Knowledge As Practice

JAIST(東京)で Transformative Service Research に取り組んでる社会人大学院生の研究・勉強メモ

高品質・低価格を目指す「スマート・エクセレンス」とは

今回は「スマート・エクセレンス 焦点化と共創を通した顧客戦略」*1を読みました。


スマート・エクセレンスとは「低価格帯の市場にポジショニングし、特定機能に絞って高機能化を図り、従来の多機能・高価格サービスと同レベルの顧客満足を実現」するサービス業のこと。スーパーホテルがいい例のビジネスホテル、ネット生保、LCCQBハウスとかが当てはまります。


今回の論文では、なぜスマート・エクセレンスは顧客の指示を得ているのかを3つのキーワードで迫っています。そのキーワードとは「焦点化」「価値共創」「顧客ミックス」です。それぞれ簡単に見ていきます。


1.焦点化
焦点化は3つにわかれます。機能の焦点化、顧客セグメントの焦点化、チャネルの焦点化です。要は、至れり尽くせりのフルサービスではない、ということです。フルサービスを望んでいる人はいるでしょうが、賢明な消費者はコストパフォーマンスの高いサービスを選びそうです。


2.価値共創
この項目は私がいちばん気にして読んだところです。価値共創の概念はあいまいなので、きちんと定義しておかないと議論がずれるのは前に書いたとおりです。価値が企業によって事前に決められたのではなく、顧客によって事後創発的に作られることを価値共創としています。この定義の価値共創には、3つの大事なポイントがあります。


1つ目は企業は価値を事前に決められないけれども、顧客に提案はできる。そして提案を受けた顧客は自らの選択によって、価値を生み出そうとするので、企業は顧客が自律的に消費行動ができるようにサポートすることが重要になります。


2つ目は、1つ目を受けたもので、価値の源泉は企業と顧客(または顧客だけ)の「共創志向性」にあるとうことです。共創志向性の高い顧客は自分で決めた納得感や実行する楽しみが高くなります。


3つ目は、共創される価値はフルサービスよりも低価格になる点です。顧客が能動的に動くことになるので、フルサービスがやっていたことを顧客に任せることができ、コストは下がります。


3.顧客ミックス
一般的に、顧客はご新規さんから成長してコアな顧客になっていき、そのコアな顧客が大事とされます*2。しかし、スマート・エクセレンスの顧客にはいろいろな層が考えられるとしています。

たいへん興味深い論文なので、ぜひお読みください!

★  ★  ★

価値共創の定義が参考になる論文でした。価値が事前規定されているか、事後創発的なのかで Co-Prodcution と Co-Creation をわける。わかりやすい。そして、すべての顧客が価値共創を望んでいるのではなく、共創への関わり度合い(共創志向性)がある。Vargoらのいう「顧客は常に価値の共創者である」とは違っていますね。


なお、この論文の前に、参考とすべき論文が2つあります。藤川ら(2012)*3と小野ら(2013)*4です。前者は次に読んでみようと思います。後者は以前読んだことがあって、とてもおもしろかった印象があります(また再読しないとけない必要性を感じています)。

*1:小野譲司(2014)「スマート・エクセレンス 焦点化と共創を通した顧客戦略」『 一橋ビジネスレビュー』, 61(4), 56-75。

*2:本稿では、この考えを「一元的顧客成長仮説」と呼んでいます。

*3:藤川佳則・阿久津聡・小野譲司(2012)「文脈視点による価値共創経営: 事後創発ダイナミックプロセスモデルの構築に向けて」『組織科学』, 46(2), 38-52。

*4:小野譲司・藤川佳則・阿久津聡(2013)「共創志向性 事後創発される価値の原動力」『 マーケティングジャーナル』, 33(3), 5-31。

マーケティング系のサービス研究業界まとめ

"Handbook of Service Marketing Research" という本の中に、サービス研究についてまとめてくれている表があります。サービス研究は、マーケティング系・工学系・マネジメント系などいろいろな方たちが学際的に進めているので、はじめて足を踏み入れると、とてもゴチャゴチャした印象を受けます(私がそうでした)。


ちなみに "Handbook ~" はこんな本です。

Handbook of Service Marketing Research

Handbook of Service Marketing Research

 

 

 "Marketing: A Service Science and Arts Perspective"*1 という論文を参考にマーケティング系に絞って、どういう代表的な研究者、カンファレンス、学会があるのかを紹介します。抜けていたら教えてください。


<代表的な研究者>


<代表的な論文誌>

  • CACM(Communications of the Association for Computing Machinery)*4
  • JSR(Journal of Service Research)
  • JM(Journal of Marketing)
  • JAMS(Journal of the Academy of Marketing Scicences)
  • JBIM(Journal of Business & Industrial Marketing)


<代表的な大会・学会*5


まだまだ足りないような…。でも、最低限、これだけ知っておけばいいような気がします。

*1:Spohrer, J., Kwan, S. K., & Fisk, R. P. (2014). "Marketing: A Service Science and Arts Perspective,”. Handbook of Service Marketing Research, 489-526.

*2:正確な読み方がわかりません…。

*3:古い日本語文献にはガメソンとかグマーソンと書かれています。でも、テレビのアナウンサーの発音だと「ぐまそん」でした。

*4:これ、私はノーマークでした…。

*5:FMM(Forum Markets and Marketing)を追加してもいいかな。

効率的な論文の読み方とは? 論文の読み方を知るための論文

いま、進学のために書く研究計画書をよいものにしようと、質の高い論文を読むのに苦心しています。「博士(後期)課程の1年目は論文100本くらい読む」と師匠的存在から言われていますが、どうせなら質の高い論文に出会いたいものです。


今日読んだのは "How to read a paper"(Kehav 2007)*1です。どんな人かは知りませんが、まぁ短いし、ということで読みました。暗黙知的にやっていたことも多いですが、まとめてみます。

 

【論文の読み方】

効率的な論文の読み方を学ぶことは重要だが、めったに指導されない。論文を読むには3つのステップがある。第1ステップで論文の一般的なアイデアを得て、第2ステップで論文の内容を理解し、第3ステップでより深く理解する


第1ステップ(5~10分)。第1ステップで印刷して続けて読むかを決める*2

  • タイトル、アブスト、イントロ部を注意深く読む。
  • 節・項の最初のほうを読む。他のところはすべては無視する。
  • 数学的な内容(もしあれば)をざっと見て、理論的な基盤を確認する
  • 結論を読む。
  • 参考文献を概観し、頭の中ですでに読んだことがある論文を挙げる。


第1ステップで5つのCに答えられないといけない。

Category:論文のタイプは? 計測か、既存のシステムの分析か、試論か。
Context:他のどんな論文と関係しているか? どんな理論的な基礎が使われているか?
Correctness:仮定は妥当か?
Contribution:論文の主な貢献は何か?
Clarity:論文は明解に書かれているか?


第2ステップはより注意して読むが、論証のような詳細部は飛ばす。知らない用語や著者に質問したいことをメモしておくとよい。かける時間は1時間まで

  • 図、表などを詳しく見る。特にグラフには注意する。軸ラベルは適切か? 結果はエラーバー付きで結論は統計的に有意か?
  • 読んだことがない文献をマークしておく


第2ステップを終えたら、3つの選択肢のうちからどれかを選ぶ。

  1. その論文を読まない(自分のキャリアには必要ないと期待しつつ)。
  2. あとで読むために取っておく(背景知識を得たら戻ってくる)。
  3. 第3ステップに進む。


第3ステップは初心者だったら4~5時間かかる。ベテランなら1時間くらい。第3ステップでは、著者と同じような仮定を立てて、論文を"作りなおす"。再創造によって、論文の新規性や隠れたミスも見つけられる。第3ステップでは、将来の研究のために思いついたアイデアは書き留める。

詳細はぜひ原典にあたってください。

 

★ ★ ★


普通にビジネススクールを修了した人よりも論文を読んでいる自負はありますが、まだまだ読み慣れていません。「こう読めばよい」と直接誰かから教わったことはなく(私の周りのほとんどの方がそのようです)、手探りだったり、Amazon で研究方法の本を買って読んだりしてきました。


ちょうど、deepdyve を使って論文を読んでいる時に、「これがオススメ」とレコメンドシステムに言われたのが今回の論文です。deepdyve は月額制の論文レンタルサービスです。大学に所属していない人間には便利。


2週間無料期間で使っています。継続するかどうかは悩み中。

*1:Keshav, S. (2007). How to read a paper. ACM SIGCOMM Computer Communication Review, 37(3), 83-84.

*2:つまり、第1ステップはPC上でやるみたいですね

サービス研究の最先端テーマ「TSR」を知る論文

今日読んだ論文は Anderson et al.(2013)*1です。論文レンタルサービスの deepdyve を利用して読みました(無料期間で)。

 


Transformative service research(略して TSR)はまだほとんどの人が知らないテーマです。そのまま訳すと「変革的なサービス研究」。経済の大部分がサービス業なのだから、サービスがよくなれば社会が良くなるんじゃないか、という意味で「変革的」なのだ理解しています。


この TSR を研究している日本人はおそらくほとんどいなくて、北陸先端大の白肌先生くらいかと。今回の論文の共著者として名前が上がっています。論文では、TSRは次のように述べられています。


消費する実体(個人、集団、生態系)の幸福に関する良い変化や改善を生み出すことを中心としている消費とサービスの研究を統合すること

 


TSR のコンセプトは次の図で示されています。

f:id:hikaru1122:20150615212804p:plain


出所:Anderson et al.(2013)


とってもシンプルな図。サービスする実体*2と消費する実体*3が相互作用することで幸福*4が生まれる。そして、この関係はマクロ環境も影響を与える。まぁ、当たり前です。でも、一見当たり前のものをきちんと整理、追究していくのが研究だと思います。当たり前の中に意外な発見があればベストなんですけど(そういう研究したいなぁ)。


企業の経営だけではなくて、もっと範囲を広げたサービス研究によって世の中を良くしていこう、ということでしょうか。論文中に例として上げられているのが、フィナンシャルサービス・ヘルスケア・ソーシャルサービスといった比較的「公共サービス」といえるものです。


たしかに、公共サービスがよくなれば、世の中の幸せは上がります。政策に関心がある人、公共団体(自治体とか?)には、TSR 関連の論文はぜひ読んでみてほしいですね。

*1:Anderson, L., Ostrom, A. L., Corus, C., Fisk, R. P., Gallan, A. S., Giraldo, M., ... & Williams, J. D. (2013). Transformative service research: An agenda for the future. Journal of Business Research, 66(8), 1203-1210.

*2:entity を実体と訳しましたが、もっといい言葉がありそう。

*3:同上

*4:well-being と happiness の違いがよくわからないけど…。

行動経済学的アンケートを行った研究を読む

今日読んだのは、江本(2012; 2013)です*1。こちらの論稿は糖尿病の患者さんに行動経済学的なアンケートを取り、2型の糖尿病患者さんに役立つ知見を探そうというものです。


行動経済学的アンケートとは、先行研究をもとに「危険回避度」「時間割引」に関する質問をしたものです。例えば、こんなの。


あなたが普段お出かけになるときに、傘を持って出かけるのは降水確率が何%以上のときですか?

百分の一の確率で10万円が当たるくじがあります。あなたならいくらなら、このくじを買いますか?

あなたを含む100人のうち、10年以内に心筋梗塞脳梗塞になる人が何人だと自分も心筋梗塞脳梗塞になると思いますか?

あなたは子供のころ、休みに出された宿題をいつ頃にすることが多かったですか?
出所:江本(2012; 2013)から抜粋。



それぞれの質問の単純な分析では、1型と2型の患者さんで違いは見られなかったそうですが、2型は回答方法がちょっと違うそうです。どうやら「神経経済学的意味での適応障害である可能性」「2型の発症にはリテラシー能力の低下が関与」ということが考えられるそうです。


このあたりの研究はよくわかりませんが、このようなアンケートの研究があるのは興味深い。価値共創の研究*2は消費者の心理に注目しないといけないと考えています。だって、「価値は独自に現象学的に決定され」るという基本的前提がありますし*3。そのため、行動経済学的なアンケートを組み込むはいいかもしれません。


なお、この研究で私がいちばん関心したのはアンケートの取り方です。2012年の研究では郵送調査で返答してくれた方に図書券を渡していたそうです。そして、2013年には調査票を渡すときにいっしょに図書券(500円分)を渡したら、返答率が大幅に増した。


こういうこと(返報性の法則)は知っていましたが、やっぱりそうすることが大事なんだ、自分の研究ではそうしてみようと、腹をくくることができました。


ちなみに、こういうことを調べているのは、先日の日本商業学会研究大会の講演で、青学の小野譲司先生が「行動経済学の実験・研究が役立つかも(超訳)」とおっしゃっていたからです。というわけで、今後も継続的に行動経済学の資料は探します。

*1:江本直也(2012)「糖尿病患者に対する行動経済学的アンケートの有用性の検証」『行動経済学』, 5, 201-203。
江本直也(2013)「行動経済学的アンケートによる糖尿病患者の病型病態分析」『行動経済学』, 6, 78-80.

*2:サービス・マーケティング、サービス研究の文脈で言っています。

*3:もちろん、これを金科玉条にする必要はない

【再読】ブランド研究と価値共創研究の融合を考える論文

今日読んだ論文は「消費者行動研究における最近の展開」*1です。消費者行動行動論の研究の系譜をざっとつかめます。ブランド研究と価値共創研究を織り交ぜているので、自分の研究計画書づくりに役立つのではないか、ということで読みました。


今回、目を引いたのは2000年以降のブランド論について。これまでのブランド論は消費者が商品などを選ぶ際の手がかりだったり、リスク削減、意思決定の単純化が目的だったと。それに対して、新しいブランド論では、ブランドは次のように捉えられています。

ブランドは意味であり、人々の生活を支援し、人生に意味を与えるための手段である。分析の焦点は消費や使用のプロセスに当てられ、そこでの経験的な側面やブランドの象徴的な意味が問題とされる。また、消費者は、そのようなブランドの意味の能動的な創り手として位置づけられ、企業はブランドの意味を創造する主体の1つにしか過ぎない


私の研究も消費・使用段階を対象にしようと考えているので、とても共感できます。なお、このあたりの話は、こちらの本でも読んだ記憶があります。修論で引用しようかと思いましたが、ブランドの議論まで踏み入ると迷いそうなので、当時はやめました。

 

価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦

価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦

 

 

共創*2されるブランド力というのをどう測るか。それがこれからの問題です。普通に、リピート率・回数、購入金額、クチコミで測ってははいけないでしょう(従来の考え方と同じになってします)。


青木(2014)では「ブランド・エクスペリエンス」「ブランド・リレーションシップ」という言葉が出てきます。これが大きなヒントになりそうですが、測るのは難しそう。


価値とか共創とか経験とか関係とか、ほんとうに抽象的な言葉で困ってしまいますね。価値共創というせっかくのいい議論も実社会で活かさないともったいない。No measurement , No control。計測によって、活用の幅は広がるはず。


このへんは社会心理学社会学が解決の鍵だと思っているのですが…。

*1:青木幸弘(2014)「消費者行動研究における最近の展開 ―新たな研究の方向性と可能性を考える― 」『流通研究』, 16(2), 3-17。

*2:企業が提供する製品・サービス、つまり offering への顧客参加のことを指していません。

サービス品質をどのように測ればいいか、コンパクトに学べる論文 

今日読んだ論文は「サービス評価モデルの発展と今後の展望」*1です。サービスの評価というのはモノ(製品)とは違って、客観的な品質評価をするのがなかなか難しいです。


その理由は、サービス・マーケティングの伝統的な考え方だと「サービスには無形性・異質性・不可分性・消滅性があるからだ」とされます。要は、目に見えないし、サーブするのは人なのでいつも同じようにサービス提供できないし(人は機械のように同じ動きはできない)、保存できなから確かめられないというもっともな理由です。


それでもなんとかして評価しないと、改善が見込めませんし、なにが優れたサービスなのか比較ができない。ということでサービスの評価はいろいろと考えられてきました。この論文は初めにサービス評価の方法を北欧派と北米派で整理しています。


北欧派はサービス評価モデルを成果品質・相互作用の2次元で捉え(その後発展して、3次元で捉えることもあります)、北米派は5次元で評価します。北米派の5次元のモデルが、かの有名な「SERVEQUAL」(サーブカルもしくはサーブコルと読む)です。


さらに、長島(2014)はサービス評価モデルの発展を「学術的発展」と「実務的発展」で整理していきます。このブログを読んでいる方は実務家が多いので、実務的発展にフォーカスあてて紹介します。実務的発展は「特定分野への適用」「サービス振興を目的とした業界横断的品質計測」にわかれるそうです。私の修論は前者(特定分野への適用)でした。後者の有名な例は JCSI です。


目に見えない、品質にバラツキがあるサービスをどのように評価するのか興味がある人はぜひ読んでみてください。コンパクトにサービス評価モデルの系譜、問題点、これからについて書かれています。もっと深く学びたい方は、関西学院大学の山本先生の本がオススメ。

 

新装版 サービス・クォリティ―サービス品質の評価過程 (bibliotheque chikura)

新装版 サービス・クォリティ―サービス品質の評価過程 (bibliotheque chikura)

 

*1:長島直樹(2014)「サービス評価モデルの発展と今後の展望」『経営論集』,84,65-79。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。