サービス・ドミナント・ロジックをやさしく説明してみる(1)
サービス研究を志しているのに、このブログでその話題が少ないのを反省して、サービス・ドミナント・ロジックについて取り上げます。
サービス・ドミナント・ロジックという考え方・ものの見方は、なじむのに時間がかかると思います。ネット上でも日本語による情報は少ないです(論文のPDFを除く)。そして「サービス」という言葉に引っ張られて誤解されることも多い。
ということで、これから私の理解のサービス・ドミナント・ロジックを概観します。参考にするのは「Seminar on Business Model Innovation」というプレゼン資料*1です。
◆サービス・ドミナント・ロジックの前にグッズ・ドミナント・ロジックから
サービス・ドミナント・ロジックという考え方は、Vargo と Lusch という2人のアメリカ人によって議論が始まりました。サービス・ドミナント・ロジックという言葉は長いので、以下、S-Dロジックと省略します。
S-D ロジックは反対の概念「グッズ・ドミナント・ロジック(略して、G-D ロジック)」の理解から始めたほうがいいです*2。
グッズはあの「グッズ(Goods)」、すなわち物財(もの)。ドミナントは「支配的な・優勢な」という意味です。ロジックは「論理、考え方」。ということで、G-Dロジックは「物財が支配的な論理」。もう少しわかりやすく言い換えると、「物財を中心にした経済活動の捉え方」です。
こういう図を Vargo は使っています。
出所:"Seminar on Business Model Innovation" Presented by Stephen Vargo.
サプライチェーンによって、供給者から必要なものを受け取って生産者が物を作り、送り届け、消費者が受け取る。物にはあらかじめ生産者が決めた価値があって、それを人々が受け取り、消費する。上図はそんな関係を示しています。
◆G-D ロジックの問題点
Vargo と Lusch は G-D ロジックという考え方はまちがっていると考えました。まずサービス業*3という存在が、物の価値を高めるためのオプション的扱いにされていたり、物より劣っているものとして扱われていると指摘しました。
サービス業が物より劣っているというのは、サービス業が「形がない・品質が一定ではない・生産と消費が同時に起こり在庫できない・保存ができず消えてしまう」という特徴を持っているとされるためです。
「世の中の経済はサービス業が大部分を占めるのに、サービス業が物より劣っているとしたら、ポスト工業化時代(つまりサービス経済)ってあまり望ましくない経済社会なの? それって変じゃない?」と Vargo らは主張するのです。
さらに G-D ロジックには問題があります。まず、私たちが物を買うのは、物自体がほしいのでありません。私たちがほしがっているのは、物を消費・使用することで得られる便益(ベネフィット)だったり、ブランド・セルフイメージの向上・社会的なつながり*4など目に見えないものだったり、体験・経験だからです。
次に、G-Dロジックは「顧客を価値の受け手」として捉えているから、生産者ファーストで、顧客は2番手ということになります。また、イノベーションとは物やサービスを「よりよく、新しく、魅力的」にしてもっと価値を埋め込み、それらを待っている市場に送り届けるということになります。そうだとしたら、「顧客志向」という言葉なんてウソじゃん、生産者中心で考えてるじゃん、といういうわけです*5。
このように、物を軸として考える G-D ロジックでは、現代のサービス経済をうまく捉えるすることが難しい。そこで「物をつくる製造業も、形がないものを提供するサービス業も一度にシンプルに考えることはできないか?」と Vargo らは思い至るわけです。
そうして編み出されたのが「サービス」を中心に経済活動をとらえ直す S-Dロジック という考え方。S-Dロジックというレンズを通して見れば、シンプルになるじゃないか、というわけです。
ここでやっと本題に入れそうですが、ボリュームが多いので、つづきは別のエントリーで! 続く!!
※誤解、間違いがあればご指摘いただければ幸いです。
続きはこちら↓
*1:"Presentations on Service-Dominant Logic" にアップされている最新のもの(2015年6月20日現在)です。
*2:これが理解しにくい理由の1つだと思います…。
*3:英語では Services と表現されます。複数形になっていることに注意してください。複数形と単数形の違いはS-Dロジックの理解にとても重要です。
*4:もう1つ、meaning を挙げていますが、文章で表現するには勉強不足で難しく、わかりやすさを考慮して省略しています。
*5:ちょっと乱暴な言い方ですが、S-Dロジックとイノベーションの議論はまた違うところで行いたいと思いますので許してください