Knowledge As Practice

JAIST(東京)で Transformative Service Research に取り組んでる社会人大学院生の研究・勉強メモ

論文「顧客収益性の統計的分析」を読む

最近、統計分析の学習をしていなかったので、勉強になる論文を読んでみました。マルチレベル分析の経営学での応用事例を検索していて見つけたものです。偶然というか、第1著者は私の専門職学位論文の分析パートをチェックしてくださった先生、第3著者は専門職大学院のゼミの先生です*1

 
論文タイトルは「顧客収益性のと統計的分析 ─管理会計研究のマルチレベル分析の適用可能性─」*2です。内容は、階層線形モデル(HLM、マルチレベル分析)を管理会計研究・実務へ活かす可能性を探ったものです。戦略論、管理会計研究の既存研究を概観し、シミュレーションを行っています。

 
特に勉強になったのは、

  • ある階層のデータが少なくとも5を下回ると結果の誤差は無視できなくなるほど大きくなる。
  • ある階層のデータが少なくとも10あれば、HLM は頑健な結果を得られる。
  • 分散の極端な偏りに対しても、頑健な結果が得られる。

というものです。

 
HLM を使う利点として「多階層におよぶ影響がひとつの利益指標に集約されている時にHLMを用いると、それらがどのような階層からの影響力が大きいのかを説明できる」と述べています。例として、先行研究レビューと顧客別利益を支店・担当者・顧客・時間という4つの階層でシミュレーションを行っています。

 
シミュレーションで使用された R のパッケージはnlmeです。glmmMLlmerTest しか使ったことがないので、このパッケージを知ったことも勉強になりました。マルチレベル分析については、心理学や生態学の例を書籍やネットで見ることが多かったので、経営学のフィールドにいる自分としては、こういう論文はとても身近に感じます。

 
なお、マルチレベル分析の組織マネジメントへの応用としては、次の本があります。マーケティング・サイエンスの世界では、高度な分析がたくさん行われているようですが*3、その他の経営学の分野ではまだまだ少ないように思います。

*1:私の専門フィールドはマーケティング論(の特にサービス研究)ですが、ちょっと大人の事情で管理会計の先生のゼミに所属していたのです。

*2:新井康平, 大浦啓輔, 加登豊. (2014). 顧客収益性の統計的分析: 管理会計研究へのマルチレベル分析の適用可能性. 原価計算研究, 38(2), 78-88.

*3:学会に行っても、ほとんど理解できずに帰ってきてしまいます…。

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