Knowledge As Practice

JAIST(東京)で Transformative Service Research に取り組んでる社会人大学院生の研究・勉強メモ

サービス・ドミナント・ロジックをやさしく説明してみる(3)

「サービス・ドミナント・ロジックをやさしく説明してみる」の第3回目です。第1回目と第2回目を読まれていない方はぜひ順番に読んでください。

◆S-D ロジックの基本的前提

さて、基本的前提は現在(2015年6月)で10個あります*1。そして、FP1~10という番号がついています。FPとは基本的前提を英語に直したときの Fundamental Premises の略です。S-D ロジックの理解のために重要な基本的前提は次の4つです。

FP1:サービスは交換の基盤である。
FP6:価値は受益者を含む多様なアクターによって常に共創される。
FP9:すべての経済的・社会的アクターは資源統合者である。
FP10:価値は受益者によって常に独自に現象学的に決められる。

 

突っ込みどころがたくさんあるでしょうが、ガマンしてください。ここが、こらえどころです。説明します。


まず「サービス(単数形!)」についてもう1度。「サービス」とは、誰かのためにリソースを活用することです。企業は何かを作ったり、サービス(これは複数形!)を提供するときに企業のリソースを活用します。そして顧客も自分の知識や経験や技術などを活用して物を使ったり消費したり、サービスを受けます。


そういう意味で、「サービス」が交換(ビジネス・取引)の基盤だというわけです。また、企業も顧客もリソースを活用して「サービス」を交換し合っています。「サービス」はリソース、すなわち資源を活用することなので、経済社会にいるすべての存在は資源統合者だというのです。


「サービス」の交換によって生まれる価値というのはどちらかが一方的に提供しているわけではありません。だから、価値は共創される(Value is co-created)ことになります。価値が共創されることを略して「価値共創」といいます。


なお、受益者とかアクターという言葉があまり気にする必要はありません。受益者というのは、利益を受ける人のことです。たとえば、ある人が眠気を飛ばすためにエナジー系ドリンクを飲んでスッキリしたら、その人が受益者です。たいていの場合、受益者は顧客のことを言っています。


アクターとは、企業、顧客やそれらに関係するすべての人・組織を指します。日本語文献では「行為者」と書かれることがあります。役割によって名前を付けず、みんな価値を共創するために活動しているのだということを強調する表現にすぎません。

◆共創される価値とは

FP10はすごく大事。FP10を超訳すると「(共創される)価値は顧客によってそれぞれ違う」ということです。さらっと当たり前のことのように思いますが、重大です。この基本的前提をとっている S-D ロジックの視点では、企業は顧客に価値を提供(Value delivery)できない、というわけです。


はい、企業は価値を提供できないんです。だって、価値は共創されるものだから。企業から顧客へ「これがこの商品の価値です。はい、どうぞ」と提供することはできないのです。その代わりに企業ができるのは価値の提案(Value Proposition)です。


企業は「この商品はこのような価値があると思うんですけど、どうでしょうね? 使ってみてください」という価値の提案を行い、顧客は自分のリソース(オペラントリソース!)を使って、使用・消費・体験します。このとき、顧客のリソースは人それぞれですし、そのときの環境やその人の状況によってリソースの活用度合いは変わります。


そういうわけで、価値は顧客によってそれぞれ違うものになります。これがFP10が伝えていることです。このように共創される価値を「文脈価値(Value-in-context)」といいます。そのときどきの環境・状況・背景、つまり文脈によって価値が違うよね、という意味です。

◆まとめ

S-D ロジックは「サービス」を軸にして市場やマーケティング、企業や顧客との関係を捉え直す考え方でした。「サービス」とは「リソース」を互いに活用することです。「リソース」とはざっくり知識とスキルのことです。


企業と顧客がそれぞれのリソースを活用して、価値が生まれます。つまり、価値は一方的に提供されるのではなく、共創されるのでした。これを「価値共創」といいます。そして、共創される価値は受益者(顧客)によってそれぞれ違うものになります。なぜなら、顧客によってリソース・身を置く環境などが異なるからです。共創される価値は「文脈価値」と呼ばれます。


やっとここまで来ました。これを読めば、ネット上にあるS-Dロジックや価値共創の議論を理解しやすくなると思います。S-Dロジックの冒険はまだ続きます!

*1:2004年から少しずつ改訂され、いまに至ります。

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