Knowledge As Practice

JAIST(東京)で Transformative Service Research に取り組んでる社会人大学院生の研究・勉強メモ

【追記あり】マルコフ連鎖の収束診断の基準と書き方メモ

マルコフ連鎖の収束って、どうやって書けばいいのかわからないので、ざっと調べることにしました。事の発端は、ShinyStanで収束診断(DIAGNOSE)をするとき3つの指標が示されるのですが、3つの指標全部が None じゃないといけないか、と r-wakalang で質問したことです。回答もいたただけて、もう少し書き方も含めて調べてみようとなりました。

 
r-wakalang はこちら。 github.com

 
ShinyStan の使い方は↓の33ページ以降が役立ちます。

www.slideshare.net

 
cinii で検索したり、twitter で流れてきたものをかいつまんで読んでいます。全部で4つです。

 
●浅田他(2014)では「収束診断方法は複数あり~」「Gelman-Rubin統計量(R-hat)は1.1未満となっているときに、連鎖が定常状態に収束していると判断した」「Gelman-Rubin統計量(R-hat)の点推定値は~~のいずれも1.1以下であった」とあり、R-hatの計算方法として古谷(2010)、マッカーシー(2007)を参考せよとある。

 
●Namba et al.(2018)には「The value of Rhat for all parameters equalled 1.0, indicating convergence across the four chains.」とあります。

 
●清水(2017)には「サンプリング回数を1万回、バーンイン期間を5000回、マルコフ連鎖の数を4に指定して推定したところ、すべてのパラメータのR_hatが1となり、収束が確認された」とあり、脚注に「1に近いと収束したと判断される指標。1.05以下が目安とされる(Gelman, Carlin, Stern, &Rubin, 2004)」とBDAの第2版が引用されていました。

 
ちなみに、こちらではBDA第2版で「1.1より下」という基準が引用されています。ん~、とりあえず出張から帰ったら最新版のBDA3を確認する。 takehiko-i-hayashi.hatenablog.com

 
●渡辺他(2017)では「計算の結果,Gelman-Rubin 統計量はすべてのパラメータに対して1.01以下となり,各マルコフ連鎖が定常状態に収束していることを目視で確認した」とあり、BDA第3版が引用されていました。

 
ざっと調べたところ書き方も含め、1.1未満、1.0になってる、1.05以下と思ったよりいろいろありました。みどり本も帰ったら確認してみよう。

Bayesian Data Analysis, Third Edition (Chapman & Hall/CRC Texts in Statistical Science)

Bayesian Data Analysis, Third Edition (Chapman & Hall/CRC Texts in Statistical Science)

  • 作者: Andrew Gelman,John B. Carlin,Hal S. Stern,Donald B. Rubin,David B. Dunson
  • 出版社/メーカー: Chapman and Hall/CRC
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: ハードカバー
  • この商品を含むブログを見る

 

参考文献

浅田正彦, 長田穣, 深澤圭太, & 落合啓二. (2014). 状態空間モデルを用いた階層ベイズ推定法によるキョン (Muntiacus reevesi) の個体数推定. 哺乳類科学, 54(1), 53-72.

Namba, S., Kabir, R. S., Miyatani, M., & Nakao, T. (2018). Dynamic displays enhance the ability to おりdiscriminate genuine and posed facial expressions of emotion. Frontiers in Psychology, 9, 672.

清水裕士. (2017). 二者関係データをマルチレベル分析に適用した場合に生じる諸問題とその解決法. 実験社会心理学研究, 56(2), 142-152.

渡辺 憲, 高麗 秀昭, 小林 功, 柳田 高志, 鳥羽 景介, 三井 幸成, 階層ベイズモデルを用いた丸太の天然乾燥における乾燥時間の推定および丸太の諸形質が乾燥性に及ぼす影響の評価, 木材学会誌, 公開日 2017/03/30, Online ISSN 1880-7577, Print ISSN 0021-4795, https://doi.org/10.2488/jwrs.63.63, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwrs/63/2/63_63/_article/-char/ja

 

追記(2018年6月16日)

BDA3を確認。Rhat ついては287ページに「閾値として1.1の設定で一般的によしとしてきた」と書いてあった。犬4匹本では,Rhat について(Gelman-Rubin統計量として)184ページで言及されている。みどり本では,206ページで言及されている。犬4匹本もみどり本もRhatの目安は1.1。豊田先生編著『基礎からのベイズ統計学』には190ページでGelman(1996)を引用して,Rhatが1.1ないしは1.2より小さいことが収束の判断として紹介されている。

ベイズ統計モデリング: R,JAGS, Stanによるチュートリアル 原著第2版

ベイズ統計モデリング: R,JAGS, Stanによるチュートリアル 原著第2版

基礎からのベイズ統計学: ハミルトニアンモンテカルロ法による実践的入門

基礎からのベイズ統計学: ハミルトニアンモンテカルロ法による実践的入門

 
というわけで,収束の判断のRhatについては1.1より小さいことが目安でよさそう(もちろんRhatだけで判断していいかどうかは別問題ということで)。

R による整列ランク変換を使った分散分析

整列ランク変換(Aligned Rank Transform:ART)という言葉を聞いたことありますか? 私はなかったです。ART(えーあーるーてぃー。「あーと」ではない)について、Tokyo.R 第61回で LT をしてきました。補足も兼ねて ART についてまとめます。

 

きっかけ

 
先日、自分の専門分野の先行研究を調べていて論文(Heidenreich, et al. 2015)を読んでいたら次のような記述に出会いました。

“As our data were not normally distributed (D(243)=2.193, p<0.01), we employed the aligned rank transform (ART) procedure for hypothesis testing. For non-normal distributed data, the ART procedure is more robust and powerful than the traditional analysis of variance (ANOVA)”

 
超訳すると「データが正規分布に従わなかったので、aligned rank transform (ART) を使って検定やった。非正規分布のデータなら、ARTを使ったほうが普通の分散分析よりロバストでパワフルだ」。

 
ART について、ネット上で検索してもほとんど日本語の情報がありません。かろうじて「整列ランク変換」という訳語が見つかるくらいです。そこで少し調べてみました。

ART法はタイプIエラーをコントロールできるエクセレントな方法だ。研究者がやりがちな古典的分散分析と比べてパワーがある(Mansouri, et al. 2004)

 

ART はどんな分布のデータにも使えるわけじゃないけど、ロバストだし一般的なノンパラメトリック検定より望ましい性質を持っている(Higgins, et al. 1990)

 

ART 検定はパワフルでロバストで使いやすい(Mansouri 1998)

 

交互作用を調べるとき、いくつかの仮定が成り立たない場合、パラメトリックな分析は必ずしもよいわけではない。代替の策として、調整ランク変換検定(adjusted rank transform test)がある。それはパラメトリックな手法とノンパラメトリックな手法の中間みたいなものだ(Leys & Schumann 2010)

 
つまり、分散分析したい、特に交互作用に注目したい時にデータが正規分布に従わない場合、従来の分散分析は(厳密には)使えないので、整列ランク変換を施してから分散分析すればいいよ、ということだと思います。

 
R パッケージがないか探したところ、ARTool というものがちゃんとありました。CRAN に登録されています。使い方もカンタン。以下、ART を使った分散分析の方法です。例題として、性別と世代の不倫の許容度に対する違い・交互作用を見たいとします。応答変数は「結婚していても場合によっては不倫を許せる?(1:許せない~4:許せる)」です。4件法でスミマセン。

 

0.データの分布の確認

ggplot(rensyu, aes(furin)) + 
geom_histogram(fill = "red", alpha = 0.7, binwidth = 0.5)

f:id:hikaru1122:20170520195014p:plain

 
あきらかに正規分布には従わないっぽい。もちろん、正規性の検定はすべきですが、ここでは飛ばします。

 

1.ARTool を使えるようにする。

install.packages("ARTool") # 1回のみでOK。
library(ARTool)

 

2.データを整列ランク変換する。

henkan = art(furin ~ nendai*sex, data = rensyu)
summary(henkan)

 
art() で変換しますが、式はよくあるタイプです。式は「art(furin ~ nendai + sex + nendai:sex, data = rensyu)」を短縮した書き方にしています。どちらでもOK。lm() のときと同じです。

 
変換後、summary(henkan) の出力結果に注意します。すべての数値が0になっていることが望ましいです。今回は残念ながらそうならなかったので、警告が出ています。しかし、練習なので先に進めます。

## Warning in summary.art(henkan): F values of ANOVAs on aligned responses not
## of interest are not all ~0. ART may not be appropriate.

## Aligned Rank Transform of Factorial Model
## 
## Call:
## art(formula = furin ~ nendai * sex, data = rensyu)
## 
## Column sums of aligned responses (should all be ~0):
##     nendai        sex nendai:sex 
##          0          0          0 
## 
## F values of ANOVAs on aligned responses not of interest (should all be ~0):
##      Min.   1st Qu.    Median      Mean   3rd Qu.      Max. 
## 0.0000000 0.0000000 0.0000000 0.0144000 0.0007531 0.0854000

 

3.分散分析を実行する。

anova(henkan)

## Analysis of Variance of Aligned Rank Transformed Data
## 
## Table Type: Anova Table (Type III tests) 
## Model: No Repeated Measures (lm)
## Response: art(furin)
## 
##              Df Df.res  F value     Pr(>F)       Sum Sq Sum Sq.res
## 1 nendai      4   1261   3.7856  0.0045704  **  1935456  161178877
## 2 sex         1   1261 100.7097 < 2.22e-16 *** 10944212  137033949
## 3 nendai:sex  4   1261   4.6317  0.0010275  **  2369093  161247964
## ---
## Signif. codes:   0 '***' 0.001 '**' 0.01 '*' 0.05 '.' 0.1 ' ' 1

 
「anova(変換したデータ)」でOK。実際には、anova.art() が動いて、デフォルトでタイプ3の分散分析をやってくれます。世代と性別の主効果、交互作用は有意になりました(なお、効果量  \eta^{2} は世代がほぼ0、性別が0.02、交互作用が0.01でほとんどインパクトはありません)。いちおう、交互作用のグラフをプロットします。

library(ggplot2)
ggplot(rensyu) +
aes(x = nendai, color = sex, group = sex, y = furin) +
stat_summary(fun.y = mean, geom = "point", size = 2) +
stat_summary(fun.y = mean, geom = "line", size = 1) +
xlab("世代") + ylab("不倫の許容度") +
scale_colour_discrete(name ="性別")

f:id:hikaru1122:20170520224157p:plain

 

伝統的な分散分析と結果を比べてみる。

aaa = lm(furin ~ nendai*sex, data = rensyu)
library(car)
Anova(aaa, type="III")

## Anova Table (Type III tests)
## 
## Response: furin
##             Sum Sq   Df  F value  Pr(>F)    
## (Intercept) 224.03    1 535.4585 < 2e-16 ***
## nendai        2.39    4   1.4269 0.22278    
## sex           2.22    1   5.3061 0.02141 *  
## nendai:sex    3.02    4   1.8051 0.12541    
## Residuals   527.59 1261                     
## ---
## Signif. codes:  0 '***' 0.001 '**' 0.01 '*' 0.05 '.' 0.1 ' ' 1

 
同じくタイプ3でやってみましたが、こちらでは世代の主効果と交互作用が有意になりませんでした。いい感じに対比できましたが、データが怪しいので、結果はあくまで参考用として受け取ってください。

 

まとめ

  • 整列ランク変換を利用した分散分析では交互作用が有意になった。

  • ただし、今回のデータはちゃんと整列ランク変換できてはいないのでなんとも言えない。

  • 今後、データが正規分布に従わない場合、使ったほうがよい手法かもしれない。

 

さいごに

 
多重比較もできます。繰り返しのデータも分析可能のようです。詳しくはパッケージ作者の Github ページを参考にしてください。今後、必要あれば、使っていきたい分析法です。

 

参考文献

  • ARTool パッケージ
    https://github.com/mjskay/ARTool

  • Feys, J. (2016). Nonparametric Tests for the Interaction in Two-way Factorial Designs Using R. The R Journal, 8(1), 367-378.

  • Heidenreich, S., Wittkowski, K., Handrich, M., & Falk, T. (2015). The dark side of customer co-creation: exploring the consequences of failed co-created services. Journal of the Academy of Marketing Science, 43(3), 279-296.

  • Higgins, J. J., Blair, R. C., & Tashtoush, S. (1990). The aligned rank transform procedure.

  • Leys, C., & Schumann, S. (2010). A nonparametric method to analyze interactions: The adjusted rank transform test. Journal of Experimental Social Psychology, 46(4), 684-688.

  • Mansouri, H. (1998). Multifactor analysis of variance based on the aligned rank transform technique. Computational statistics & data analysis, 29(2), 177-189.

  • Mansouri, H., Paige, R. L., & Surles, J. G. (2004). Aligned rank transform techniques for analysis of variance and multiple comparisons. Communications in Statistics-Theory and Methods, 33(9), 2217-2232.

  • Wobbrock, J.O., Findlater, L., Gergle, D. and Higgins, J.J. (2011). The Aligned Rank Transform for nonparametric factorial analyses using only ANOVA procedures. Proceedings of the ACM Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ‘11). Vancouver, British Columbia (May 7-12, 2011). New York: ACM Press, 143-146.

目を通してないけど、重要そうな文献

  • Salter, K. C., & Fawcett, R. F. (1993). The ART test of interaction: a robust and powerful rank test of interaction in factorial models. Communications in Statistics-Simulation and Computation, 22(1), 137-153.

  • Sawilowsky, S. S. (1990). Nonparametric tests of interaction in experimental design. Review of Educational Research, 60(1), 91-126.

統計的因果推論の勉強会の前準備

きっかけは,先月の月1ゼミでした。3時間のゼミのうち,はじめの1時間は輪読をしています。その中で私が「統計的因果推論というものがあるらしい」と情報共有をして,その後「日本社会心理学会 春の方法論セミナー」のページを紹介したところ,先生が興味を示されました。そして,5月からゼミ前の90分間を使って,自由参加で統計的因果推論の勉強会(1回につき1章ずつ)をスタートすることにしました。私が音頭を取って…*1

 
私を含め,参加者となるのは経営学(主にマネジメント)を勉強・研究しに来ている社会人学生なので,基本,文系が多いです。統計分析の基本知識を一緒に復習しながら,勉強会を進めていく予定です。

 
まず,統計的因果推論勉強会の前準備をするために,資料にあたりました。そのまとめメモとして,書き残しておきます。書籍,ブログ・スライド,Cinii で検索した日本語論文の3タイプに分けます。

 

書籍

代表的なのは次の2冊。必ず紹介されています。もう紹介も不要なレベル。

統計的因果推論―回帰分析の新しい枠組み (シリーズ・予測と発見の科学)

統計的因果推論―回帰分析の新しい枠組み (シリーズ・予測と発見の科学)

 
ただし,数学を学部のときに学んでいない人にはきついです。宮川本は6章より先はサッパリ(目は通した)。現時点では,宮川本・星野本も合わせて3割くらい理解できたかどうか,というところ。私のような文系には次の森田本でイメージをつかむのがよさそうです。16章に説明があります。ただし,アニメが好きな人に限ります。

 
もう1つ日本語ではタイトルど直球の本があります。上記2冊よりはやさしい印象ですが,数式はけっこう出てきます。この本は4割くらい理解できたかもしれません。

統計的因果推論 (統計解析スタンダード)

統計的因果推論 (統計解析スタンダード)

 
もっと文系にやさしく統計的因果推論を説明している本はないかと,洋書もチェックしました。次の2つが読みやすそうでした。Kindle のサンプルをチェック後,まず私は ”Primer” のほうを購入して読み進めています。今年出たばかりだし,著者の1人が Judea Pearl なので,大きなまちがいはないだろう,そして薄い(印刷版だと160ページくらい)というのが選定理由です。とりあえず,1章まではついていけてます。

Counterfactuals and Causal Inference: Methods and Principles for Social Research (Analytical Methods for Social Research)

Counterfactuals and Causal Inference: Methods and Principles for Social Research (Analytical Methods for Social Research)

Causal Inference in Statistics: A Primer

Causal Inference in Statistics: A Primer

 

ブログ

Google で「統計的因果推論」で検索。結果の10ページ目まで確認して,私にとって参考になるのは次のものでした。

 
星野本を4回に分けてまとめてくれています。やっぱり難しい。いつかはわかるようになりたいです。
smrmkt.hatenablog.jp

 
こちらも星野本の実践例。もともと本にRのコードが付いているから,実際にやってみるのができるんですね。
www.fisproject.jp

 
こちらも読み応えがあります(まだ読み切れてない)。この分野は林先生のブログがとても勉強になります。
takehiko-i-hayashi.hatenablog.com

 
清水先生の LiNGAM まではたどり着けていません…(理解力と数学力が)。

 

論文など

検索すると,宮川先生・黒木先生を中心にいろいろ出てきます。でも,まだ自分には難しくて読めない。次のものはなんとか読めるんじゃないか,文系でも興味深いじゃないかというものをピックアップしました。少しずつ読んでいこうと思います(難しくて挫折する恐れ大)。

 
社会科学分野における統計的因果推論のためのマッチング手法の活用 : 企業金融の研究における適用とその問題
ci.nii.ac.jp

 
「特集 因果的説明とベイジアンネットワーク」の以下の5本(『哲学論叢』35巻,pp. 81–141,2008)

 
因果とは何かをめぐる哲学的論争(1)D.ルイスの反事実的条件法による分析とその批判
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/96279

 
因果とは何かをめぐる哲学的論争(2)メンジーズの機能主義とそれに対する批判
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/96278

 
哲学者のためのベイジアンネットワーク入門
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/96277

 
ベイジアンネットワーク、共通原因、そして因果的マルコフ条件
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/96276

 
ベイジアンネットワークと確率の解釈
[
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/96275]

 
あと2つほど。
因果効果におけるバックドア/フロントドア基準について
http://www.math.chuo-u.ac.jp/\~sugiyama/14/14-01.pdf

 
<研究ノート>因果推論の理論と分析手法
ci.nii.ac.jp

*1:とても大きなプレッシャーですが,これくらいやらないと動かないので,がんばります。ちなみに裏目標として,他のゼミ生の方にも統計分析に興味を持ってもらって,こっそりR仲間を増やし,いっしょにベイズ統計を勉強できるようになりたいです。

論文「顧客収益性の統計的分析」を読む

最近、統計分析の学習をしていなかったので、勉強になる論文を読んでみました。マルチレベル分析の経営学での応用事例を検索していて見つけたものです。偶然というか、第1著者は私の専門職学位論文の分析パートをチェックしてくださった先生、第3著者は専門職大学院のゼミの先生です*1

 
論文タイトルは「顧客収益性のと統計的分析 ─管理会計研究のマルチレベル分析の適用可能性─」*2です。内容は、階層線形モデル(HLM、マルチレベル分析)を管理会計研究・実務へ活かす可能性を探ったものです。戦略論、管理会計研究の既存研究を概観し、シミュレーションを行っています。

 
特に勉強になったのは、

  • ある階層のデータが少なくとも5を下回ると結果の誤差は無視できなくなるほど大きくなる。
  • ある階層のデータが少なくとも10あれば、HLM は頑健な結果を得られる。
  • 分散の極端な偏りに対しても、頑健な結果が得られる。

というものです。

 
HLM を使う利点として「多階層におよぶ影響がひとつの利益指標に集約されている時にHLMを用いると、それらがどのような階層からの影響力が大きいのかを説明できる」と述べています。例として、先行研究レビューと顧客別利益を支店・担当者・顧客・時間という4つの階層でシミュレーションを行っています。

 
シミュレーションで使用された R のパッケージはnlmeです。glmmMLlmerTest しか使ったことがないので、このパッケージを知ったことも勉強になりました。マルチレベル分析については、心理学や生態学の例を書籍やネットで見ることが多かったので、経営学のフィールドにいる自分としては、こういう論文はとても身近に感じます。

 
なお、マルチレベル分析の組織マネジメントへの応用としては、次の本があります。マーケティング・サイエンスの世界では、高度な分析がたくさん行われているようですが*3、その他の経営学の分野ではまだまだ少ないように思います。

*1:私の専門フィールドはマーケティング論(の特にサービス研究)ですが、ちょっと大人の事情で管理会計の先生のゼミに所属していたのです。

*2:新井康平, 大浦啓輔, 加登豊. (2014). 顧客収益性の統計的分析: 管理会計研究へのマルチレベル分析の適用可能性. 原価計算研究, 38(2), 78-88.

*3:学会に行っても、ほとんど理解できずに帰ってきてしまいます…。

今年のデータ分析の学習はじめはドキュメント作成からスタート

今年は Reproducible research を意識したいです(下のスライドが参考になります)。昨年はデータと分析結果がとっ散らかって、自分が分析した手順・内容を忘れしまい、何度も同じことを繰り返すことがありましたので…。

www.slideshare.net

 
そこで、いつもは図書館で借りて読んでいる*1『ドキュメント・プレゼンテーション生成』を買ってきて、この週末に読みました。

ドキュメント・プレゼンテーション生成 (シリーズ Useful R 9)

ドキュメント・プレゼンテーション生成 (シリーズ Useful R 9)

 
恒例というか私の環境が悪いせいで、本どおりにやってもうまくいかず、PDF 出力で苦労しました。↓がうんともすんとも動かない。

knit2pdf("minimal.Rnw", compiler = "lualatex", encoding="UTF8")

 
しかたがないので、Rstudio で PDF 出力をしていけばいいかとあきらめました。Rstudio だとちゃんと PDF 出力できました。他にもbrowseURL("sample.html")とすると、勝手に Rstudio が立ち上がるので困ったり、ITエンジニア・プログラマ属性がある方には簡単に解決できそうなこともヒーヒー言いながら、読了。

 
なお、フルパスでブラウザのありかを指定すればOKです(以下は私の場合)。

browseURL("sample.html", browser="C:\\Program Files (x86)\\Mozilla Firefox\\firefox.exe")

 
その後「R Markdownで楽々レポートづくり」を読んで復習しました。ということで、今年の内輪的な勉強会は R Markdown でぜんぶやろうと思います。

gihyo.jp

*1:もし、大阪市中央図書館に行って、お目当てのR関連の本が見つからなければ、だいたい私が借りています。

ベイズ推定はベスト!?

少し前から『Doing Bayesian Data Analysis』を読んでいます。

Doing Bayesian Data Analysis: A Tutorial with R, JAGS, and Stan

Doing Bayesian Data Analysis: A Tutorial with R, JAGS, and Stan

 
著者は "Puppy Book"(子犬本)と読んでいて、表紙にかわいい子犬が3匹いるのが目立つ本です*1。社会科学(と生物学?)向けでやたら複雑な数式はなく、読みやすそうなので読み始めました。

 
読んでいるのは電子書籍著者割引を使えば6000円ほどで、PDF版とKindleで読めるフォーマットがダウンロードできます*2

 
1章には「ほんとに忙しい人は2章を読んだら、"Bayesian estimation supersedes the t test.*3" という論文を読め、そうすれば16章まで読んだとの同じだから」と書いてあります。なので、2章のあとに、その論文を読みました。

 
論文の主張は「とにかくベイズ推定。帰無仮説検定よりずっと得られる情報が多いから、ベイズ使え」の一点張り。これくらいのポジションを取るのって大事だな、と違うところで関心しました。ちなみに著者はこの論文の中でベイズ推定を BEST と略しています(ベイジアンエスティメーションの略)。ベイズサイコーってやつです。

 
書籍で使用されている分析ツールはR、JAGS、Stan。コードもあります。まだそこまで読んでいないですが、今後もじっくり読んでいく予定です。次々回以降のKobe.Rで学んだ内容を発表していこうかな、と画策しています*4

 
以下、3章までと論文を読んだ自分用メモです。

ベイズデータ分析には2つの基本的な思想がある。
1つ目の思想は「ベイズ推定は可能性の中にある信頼性の再配置する*5」こと。
2つ目の思想は「(信頼性を配置する)可能性とは、意味のある数学的モデルの中にあるパラメーターである」こと。

 

ベイズ統計分析でパラメーターを推定する。
パラメーターはデータの発生を刺激する装置の調整つまみみたいなもの。
私たちの目標は、どのモデルが信頼性あるかを評価すること。

*1:ちなみに、いちばん左の子犬がなぜ退屈そうにあくびをしているのかも意味があります。

*2:紙の本は大阪の丸善ジュンク堂にあります。14000円くらいだったかな。分厚いです

*3:Kruschke, J. K. (2013). Bayesian estimation supersedes the t test. Journal of Experimental Psychology: General, 142(2), 573.

*4:今回10月3日はR Markdownについて発表します。

*5:数ある可能性に対して信頼性を配置すること、とも。うまく日本語に直せない…。

顧客エンゲージメントが生まれた背景がわかる論稿

今回読んだのは、Verhoef et al.(2010)*1 です。タイトルは ”Customer engagement as a new perspective in customer management”。日本語だと「顧客管理における新しい視点としての顧客エンゲージメント」。

 
JSR の顧客エンゲージメントが特集された号の巻頭言的な論稿で「今号はこんな論文が載っているよ。それぞれの論文にはつながりがあるよ」という説明文書といった感じです。参考になったのは、顧客管理(CM:Customer Management)の発展の流れから顧客エンゲージメントが生まれた背景を説明してくれるところです。

CM ・ CRM は(導入の失敗で)企業の受けが悪いけれども、現代はそれなしでは考えられない。アカデミックな CM の研究領域には2つの大きな流れがある。1つは顧客を企業にとっての資産と見ること。それをどう測り、評価するのか、先行条件や成果はどんなものがあるのかを調べることが主な目的。もう1つは CM の実践方法を調べること。つまり、CM のメカニズムやドライバーを研究する。

 
CM の歴史を超簡単に振り返ったあとに、顧客エンゲージメントの大切さを語ります。顧客が他の顧客や企業と簡単につながれる社会になったいま、商品やサービスの購入だけに焦点を当てるのではなく、購入外のことを考えたほうがよい、と。顧客エンゲージメントとは、顧客の購入外の多様な行動を指します(この論稿では)。例えば、口コミ、ブログ、ランク付け(評価)など。

 
その後、掲載されている論文のつながりを図示して(下図)、顧客エンゲージメントは実りある新しい研究に必ずなるよ、といいます。

f:id:hikaru1122:20150801183534p:plain
出所:Verhoef et al.(2010)

 

★  ★  ★

サービス・ドミナント・ロジックでいう使用価値・文脈価値を考える際、顧客の購入後の行動を考えることが重要だろうと思っています。そこで、これまで顧客エンゲージメント論の先行研究を読んできました。これでだいたい主要な文献は読めました。ただ、もっと理解は深める必要を感じています。

 
あと、なかなか日本語の研究は見当たりません。探し方が悪いのか「エンゲージメント」という言葉が使われていないのか。ちょっと考えてみます。

*1:Verhoef, P. C., Reinartz, W. J., & Krafft, M. (2010). Customer engagement as a new perspective in customer management. Journal of Service Research, 13(3), 247-252.

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